MOOR(ムーア) 土本 真也|インテリア領域で7社設立した起業家が、ニーズに応える”バーチャルオフィス”を作ったワケ
ワンストップビジネスセンター 土本 真也インタビュー
(2019/04/23更新)
働き方の多様化にともなって、働く環境もシェアオフィスやコワーキングスペースなどさまざまな形態が登場しています。
そんな中、株式会社MOOR(ムーア)が行なっているのは、「バーチャルオフィス事業」。実際に入居することなく、住所や電話番号・FAX番号などをレンタルでき、来客との打ち合わせや商談などで会議室を利用することもできる、というサービスです。
リーズナブルな価格で一等地の住所を借りられたり、様々なニーズに合わせて豊富に会議室が用意されている点が創業者を中心に人気を集めており、日本全国にシェアを広げています。
ムーアは、家具・インテリアを扱うビジネスとしてスタートしました。一見畑違いに見えるバーチャルオフィスを手がけるに至った経緯は、どのようなものだったのでしょうか?代表取締役の土本真也氏にお話を伺いました。
株式会社MOOR(ムーア) 代表取締役
1976年7月12日生まれ。父親の仕事の関係で、小学校時代をアメリカで過ごす。大学卒業後、家具・建築金物メーカーに就職するも、企業体質に馴染めず1年足らずで退社。その後、貿易商社を経て起業。
製造業、流通業、小売業など幅広い事業の運営に、起業の楽しさに取り憑かれるが、同時に多くの失敗も経験する。
2009年に家具・インテリアを販売するMOORを設立し、これまでの経験と起業の重要性を改めて認識し、新事業として、2010年にワンストップビジネスセンターを東京都港区南青山にて開業。
自由な生き方を求めて、起業の道へ
土本:小学校時代は、父の仕事の都合でアメリカに住んでいました。
学校内でアジア人は僕ひとりだったのですが、自分とは違う人種・考え方に触れることができたので、今思い返すと良い経験をしたな、と思っています。
アメリカにいたのは小学校の3年間だけで、そのあとはずっと日本で生活しています。
大学卒業後は家具・建築金物メーカーに就職したのですが、自由だった学生時代とは違う社会の現実が私を待っていました。
理不尽なルールに理不尽な叱責、それに社内派閥。
「こういう組織の中で何十年も働かなくてはいけないのか」と思い悩みました。
結局、その企業は1年足らずで退社して、起業することにしたんです。
土本:僕はずっと「自由になりたい!」と思っていまして、「自由な状態になるためには、どのようにしたらいいか」を考えた結果、起業するという結論に至りました。
人生において制約を受けている大きな要素が、時間とお金だと思います。
起業すると、会社員として働いていた時と比べてそれらの制約が取れるのではないか、会社の方向性をすぐに自分で決められるのではないか、と考えたんです。
家具・インテリアビジネスで感じた3つの課題
土本:家具・インテリアに関わる事業が多いですね。
例えば、家具の品質管理の会社を創業したり、海外展開をする際に香港で会社を創業したり、といった感じです。
土本:起業してから、ずっと感じていた課題がありました。
家具を扱うビジネスは非常にコストがかかるのに、お客様と長いお付き合いをする機会がほとんど無い、ということです。
家具を販売する場合、商品をカッコよく見せるための展示スペースが必要です。しかも、実際に生活している様子をお客様にイメージして欲しいので、ぎゅうぎゅうに詰めて展示することができません。広い展示スペースが必要なんです。
さらに、家具は大きいサイズのものが多いので、1つのソファを在庫しておくだけでもそれなりのスペースが必要です。それが何十個・何百個と在庫するようになると、倉庫を借りるコストなどもバカになりません。
また、大きいものなので、運搬には大きなトラックなどが必要です。運送費用がかかるだけでなく、運搬中に破損して損害が出る可能性もあるので、それらの心配が常につきまといます。
このように大きなコストがかかる家具ですが、引越しや結婚といった人生で数回しか買うタイミングが無い、という方がほとんどだと思います。
200、300万円の家具を購入してくれるお客様を、毎日一生懸命探して、それが売れたとしても来月には売れるかどうかわからない。目の前の顧客探しに集中しなければいけなかったので、「お客様と長くお付き合いしていく」ということを考えるヒマがありませんでした。
以上の点から、「固定費を抑える」、「在庫を持たない」、「いかにお客様と長いお付き合いをするか」という課題が浮かびました。
そこから、「私たちが扱っている家具のノウハウを生かして、今までとは違う価値を提供することはできないかな」とずっと考えていまして、その時に思い出したのが、20代の頃に利用したバーチャルオフィスでした。
日本と海外の比較で閃いた、ニーズに応えるバーチャルオフィス事業
土本:私たちは起業した当初に、とあるバーチャルオフィスを利用していました。
都心一等地の住所を記載することができたので、信用度の点から見ても「すごく良いな!」と思いました。
ですが、当時の私たちにとって、不必要なサービスも多かったです。
例えば、打ち合わせで借りるミーティングスペースの内装が、テレビドラマとかでよく見る「社長室」みたいな感じで、すごく豪華でした。
それは良いことだと思うのですが、当時20代そこそこの若者だった私たちがその部屋を利用して打ち合わせしても、身の丈に合っていない違和感がありました。
私たちが利用するには過剰な設備があって、その分お金がかかっていたのです。
その後、香港で会社を設立したのですが、現地で借りたバーチャルオフィスは日本で利用していたものと比べて必要最低限の設備だけありました。非常に安い価格でバックオフィス業務ができ、私たちにとってすごく合っていたのです。
そこから、「プロデュース力や空間作りなど、私達が培ってきた家具のノウハウを活かせば、お客様のニーズにピッタリ応えるバーチャルオフィスを日本でも作れるのではないか」という考えに至りました。
しかも、バーチャルオフィスなら、在庫を抱えたり、倉庫の賃貸料のような固定費がかかるようなこともない。また一度契約したお客様と長い関係をつくることができるので、私が感じていた課題の解決、という点にも合うビジネスモデルです。
こういった流れで、2010年にワンストップビジネスセンターを始めました。
ビジネスモデルは「3つのポイント」を押さえて考える
土本:その時の状況にもよりますが、スタートアップの段階では、先程述べた「固定費がかからないもの」、「在庫を持たないビジネスであるもの」かどうかという点はまず考えます。
それに加えて、私は「誰とビジネスするか」という点を気にします。
ビジネスは、どうしても苦しい局面が出てきます。パートナーとの信頼関係が無いと、そういった状況を乗り越えることは難しいと思います。
土本:嬉しかったことは、お客様が喜んでくれたことですね。
お客様が喜んでくれたということは、私たちが考えて提供したサービスが、お客様が望んでいたものだった、ということだと思います。
例えば、お客様からバーチャルオフィス利用のお申込みがあった時などは、それを強く感じます。
大変だったことに関しては、やはりお金が回らない時ですね。
以前手がけていた事業の際には、資金が無くなって苦しい時期がありました。その時は、目の前の仕事に集中して取り組んでいきましたが、なかなかうまくいきませんでした。
その経験をしてからは、ビジネスモデルの構築により注意を払うようにしました。
固定費をどれだけ抑えることができるか、在庫を持たないようにできるか、いかにお客様と長いお付き合いをすることができるか。
この3点は特に注意してビジネスモデルを構築しています。
高価な家具を販売していた時は、「売ること」を優先してしまい、「目の前のお客様が喜んでくれるかどうか」を考えることができなくなっていました。お客さんを大事にできないと、単発でその場の売上げが上がったとしても、ビジネスとして後が続きません。
現在行なっているバーチャルオフィス事業は、お客様と長くお付き合いすることができるビジネスモデルです。
起業当初に比べると、ビジネスのサイクルが順調に回るようになり、非常に良かったと思います。
主要なスタッフは全員起業家!?
土本:求人サイトなど一般的な募集もかけていますが、信頼できる方からの紹介で採用に至ったことが多いですね。家具・インテリア販売をやっていた頃からのメンバーの中で、今も所属している者もいます。
土本:まずは、「素直であること」、「お客様に、スタッフたちに対して正直であること」ですね。それに加えて、「お客様に対して売り込みしない」ということを意識しています。お客様に選んでいただく、というスタイルにしています。
お客様の多くは「これから起業しよう」と準備されている方なので、その方たちをサポートできることは、非常に楽しいですね。
また、マーケティングやWEB制作などの主なメンバーは、全て外部の人間です。もともと弊社で働いていたスタッフなのですが、起業してもらっているんです。
土本:理由は3つあります。
1つ目は、スタッフにも起業家としての視点を持ってもらいたいから。
私たちの仕事は起業家のサポートをすることです。そのため、スタッフ自身で起業してもらい、会社を経営するうえで必要な経験を積んでほしい、と考えています。
2つ目は、私自身が「一緒にビジネスをやる人とは対等な関係でいたい」と考えているから。
社内にいると、「代表」と「スタッフ」で上下関係ができてしまいます。
外部の企業として対等な関係でいることにより、お互い働きやすくなると思うんです。
3つ目は、外部で様々なビジネスに携わってもらいたいから。
そのビジネスで培った知見を、私たちとのビジネスにフィードバックしてもらえたら、より良いものが出来上がります。
そのような理由があって、なるべく主なスタッフには独立してもらっていますね。
環境が充実している今、起業する方にとって良い土壌ができている
土本:私たちは現在全国29拠点に展開しているのですが、ゆくゆくは50拠点まで増やしていきたいですね。
また、現在会員さまにホームページ制作や法人設立のお手伝い、士業の紹介などを行なっています。起業したばかりの方って、皆さん悩むポイントが非常によく似ていらっしゃるので、その辺りのサポートを充実していきたいと思います。
土本:現代は、働き方改革の影響や各自治体の協力などもあって、起業する方にとって良い土壌ができています。
人生1回きり。失敗したとしても、いくらでもやり直すことができます。
やりたいこと、挑戦したいことがあったらぜひ起業していただき、実現に向けて進んでいってください。
(監修:株式会社MOOR 代表取締役 土本 真也)
(編集:創業手帳編集部)